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最高裁判所第二小法廷 昭和48年(さ)3号 判決

右の者に対する窃盗被告事件について、昭和四八年八月二日神戸簡易裁判所が言い渡した判決に対し、検事総長から非常上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六月以上八月以下に処する。

理由

検事総長大沢一郎の非常上告の趣意について。

一件記録によると、昭和四八年八月二日、神戸簡易裁判所は、被告人に対する窃盗被告事件につき、二個の窃盗事実及び被告人が昭和二九年六月一四日生まれであることを認定したうえ、窃盗罪の刑に併合罪の加重をした刑期の範囲内で「被告人を懲役八月に処する。」旨の判決を言い渡し、同判決は、上訴申立期間の経過により昭和四八年八月一七日確定したことが明らかである。

しかしながら、少年法五二条によると、二〇歳に満たない少年に対して長期三年以上の有期の懲役をもつて処断すべきときは、刑の執行猶予の言渡をしない限り、短期は五年、長期は一〇年を越えない範囲において、不定期刑を言い渡すべきであることが明らかであるから、原判決が、刑の執行猶予の言渡をしないのに、被告人を懲役八月の定期刑に処したのは、法令に違反しているものというべきであり、非常上告は理由がある。

そこで、刑訴法四五八条一号但書を適用すべきか否かにつき検討すると、同但書にいう「原判決が被告人のため不利益であるとき」とは、原判決の認定した事実に正しい法令を適用してあらたに言い渡すべき判決が、原判決より利益なことが法律上明白である場合をいうものと解すべきところ(当裁判所昭和二六年(さ)第五号同年一二月二一日第二小法廷判決・刑集五巻一三号二六〇七頁参照)、本件においてあらたに言い渡すべき刑は、原判決の言い渡した刑などを考慮すると、懲役六月以上八月以下の不定期刑とするのが相当であつて、原判決の刑より利益なことが法律上明白である。よつて、被告事件についてさらに判決をすることとする。

原判決の認定した窃盗の各事実は、いずれも刑法二三五条に該当し、以上は同法四五条前段の併合罪であるので、同法四七条本文、一〇条により、犯情の重い原判決認定の第一の罪の刑に併合罪の加重をし、被告人は原判決当時少年であるから、少年法五二条を適用して被告人を主文のような不定期刑に処し、原審の訴訟費用は、刑訴法一八一条一項但書により被告人に負担させない。

この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。

(小川信雄 岡原昌男 大塚喜一郎 吉田豊)

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